ダイエット停滞の原因:見落としがちな「日常の活動量(NEAT)」を評価し改善する方法
ダイエットを続けていると、体重や体脂肪の減少が一時的に止まる「停滞期」に直面することがあります。これまで順調に進んでいたのに、なぜか変化が見られなくなるこの時期は、多くの方が悩みを抱えるポイントです。停滞の原因は様々考えられますが、食事内容の見直しや運動強度の調整といった一般的なアプローチに加え、見落とされがちな要因に目を向けることが停滞脱出の鍵となる場合があります。
この記事では、ダイエット停滞期の一因として考えられる「日常の活動量」、特にNEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis)に焦点を当て、その重要性、自身の状態を評価する方法、そして具体的な改善策について解説いたします。
日常の活動量(NEAT)とは何か
私たちが消費する総カロリーは、主に以下の4つで構成されています。
- 基礎代謝量: 生命維持のために安静時に消費されるエネルギー量です。
- 食事誘発性熱産生: 食物を消化・吸収する際に消費されるエネルギー量です。
- 運動による熱産生: 意図的な運動(ウォーキング、ジョギング、筋力トレーニングなど)によって消費されるエネルギー量です。
- 非運動性活動熱産生 (NEAT): 日常生活における、運動以外の無意識的・非構造的な身体活動によって消費されるエネルギー量です。座る、立つ、歩く、家事をする、姿勢を変えるといった、非常に多様な活動が含まれます。
ダイエット、特に消費カロリーを増やすという側面では、多くの方が「運動による熱産生」に意識を向けがちです。しかし、NEATは一日を通して積み重なるため、その量が総消費カロリーに与える影響は決して小さくありません。特に、デスクワーク中心で座っている時間が長い方や、通勤や日常生活であまり体を動かす機会がない方のNEATは低くなりがちであり、これが消費カロリーの伸び悩みに繋がり、ダイエット停滞の一因となっている可能性が考えられます。
NEATの低下がダイエット停滞に繋がるメカニズム
私たちの体には、体重を一定に保とうとする「ホメオスタシス(生体恒常性)」という機能が備わっています。ダイエットによって摂取カロリーが減少し、体重が減り始めると、体は省エネモードに入ろうとすることがあります。この際、基礎代謝がわずかに低下したり、食欲が増進したりといった変化に加えて、無意識のうちに日常の活動量が減少し、NEATが低下することが指摘されています。
「運動はしているから大丈夫」と思われている方でも、それ以外の時間、例えばオフィスで長時間座り続けたり、帰宅後にソファで過ごす時間が長かったりすると、一日の総消費カロリーのうちNEATが占める割合が相対的に低くなります。意図的な運動で消費するカロリーは限られていますので、それ以外の時間でのNEATの低下は、総消費カロリーを減少させ、摂取カロリーとの差が縮まることで、ダイエットのペースを鈍化させたり、停滞を引き起こしたりする原因となり得るのです。
自身のNEATを評価する方法
自身の日常の活動量がどの程度なのかを客観的に把握することは、改善の第一歩となります。完全に正確なNEATだけを測定することは難しいですが、総活動量を測ることでおおよその傾向を掴むことができます。
- 活動量計やスマートウォッチの活用: 最近の多くの活動量計やスマートウォッチは、一日の歩数や活動時間、消費カロリーの概算などを記録できます。これらのデータを一定期間(例えば1週間)記録し、自身の活動パターンを視覚化してみましょう。特に、仕事中や休日など、状況によって活動量がどのように変化するかを確認することが重要です。
- スマートフォンのヘルスケア機能: 多くのスマートフォンにも内蔵センサーやアプリ(例:iPhoneのヘルスケア、AndroidのGoogle Fit)で歩数や移動距離を自動的に記録する機能があります。手軽に日常の活動量を確認するのに役立ちます。
- ライフスタイルの棚卸し: 一日の行動を詳細に記録してみましょう。「朝食:座って15分」「通勤:電車で40分(座り)+徒歩10分」「仕事:デスクワーク8時間(休憩以外ほぼ座りっぱなし)」のように具体的に書き出すことで、座っている時間や立って動いている時間がどのくらいあるか、普段意識していなかった活動パターンが見えてきます。
- 意識的な観察: 自分がどのような時に座っているか、立っているか、動いているかを意識的に観察します。例えば、電話をする際に無意識に立ち上がって歩き回るか、座ったままか、テレビを見る際に横になっているか、座っているか、何か別の作業(アイロンがけなど)をしながら見ているか、といった行動パターンです。
これらの方法を組み合わせて行うことで、自身のNEATがどの程度で、どのような状況で増減しやすいかといった傾向を把握することができます。もし、記録を見て「思ったよりも座っている時間が長いな」「通勤以外であまり動いていないな」と感じるようであれば、NEATの向上が停滞脱出の一助となる可能性があります。
NEATを増やすための具体的な改善策
自身のNEATの現状を把握できたら、次はその活動量を増やすための具体的なステップを生活に取り入れていきましょう。大がかりな運動時間を確保するよりも、日常の小さな行動を積み重ねることがNEAT向上のポイントです。
仕事中の工夫
- 座りっぱなしを避ける: 1時間に一度は立ち上がって軽いストレッチをしたり、オフィス内を数分歩いたりします。タイマーを設定するのも有効です。
- スタンディングデスクの活用: 可能であれば、スタンディングデスクを導入したり、会議を立って行ったりすることを提案してみましょう。
- 電話中は立ち上がる・歩き回る: 電話がかかってきたら、座ったままではなく立ち上がって話す習慣をつけます。
- 書類を取りに行く・コピーを取りに行く機会を増やす: 用事を済ませる際に、意識的に遠回りをするなど、移動距離を増やしてみます。
- 休憩時間の過ごし方: 休憩時間には席を離れ、屋外を軽く散歩したり、階段を使ったりします。
通勤・移動中の工夫
- 一駅手前で降りて歩く: 電車通勤の場合、目的地の数駅手前で降りて歩く時間を確保します。
- エスカレーターやエレベーターではなく階段を使う: 上りだけでなく、下りも意識して階段を利用します。
- 自転車通勤を検討する: 可能であれば、通勤手段を自転車に変えることも大きなNEAT向上に繋がります。
- 徒歩での移動を増やす: 近距離の移動は、乗り物を使わず歩くことを選択します。
自宅やプライベートでの工夫
- 家事の際に意識的に体を動かす: 掃除機をかける際に普段より丁寧に時間をかけたり、窓拭きや風呂掃除など、少し負荷のかかる家事を積極的に行ったりします。
- テレビを見ながら体を動かす: テレビを見ている間、ソファに座っているだけでなく、バランスボールに座る、軽いストレッチをする、足踏みをするなど、何か「ながら」で体を動かすことを取り入れます。
- 趣味に活動を取り入れる: 読書をする際はカフェまで歩いて行く、友人と会う際は買い物や散歩を兼ねるなど、趣味や楽しみの中に自然な活動を取り入れます。
- 積極的に外出する: 休日など、家でじっと過ごすのではなく、目的がなくても散歩に出かけたり、ウィンドウショッピングを楽しんだりします。
これらの改善策は、一度に全てを行う必要はありません。自身のライフスタイルに合わせて、無理なく継続できそうなものから少しずつ取り入れていくことが大切です。例えば、「まずは1時間に一度立つことから始めよう」「通勤で一駅歩くようにしよう」といった小さな目標設定が効果的です。
NEAT向上以外のメリット
NEATを意識的に増やすことは、消費カロリーの増加だけでなく、他の健康効果も期待できます。長時間座っていることによる血行不良や肩こり・腰痛の改善、集中力の向上、気分のリフレッシュなどが挙げられます。ダイエットのためだけでなく、健康的なライフスタイルを築く上でも、日常の活動量を意識することは非常に有益です。
継続とモチベーション維持
NEATの向上は、派手な変化をもたらすものではないため、継続的な意識が必要です。活動量計やアプリで日々のデータを記録し、自身の頑張りを視覚化することはモチベーション維持に繋がります。また、達成可能な小さな目標を立て、達成感を積み重ねていくことも重要です。
ダイエット停滞期は、体が変化に抵抗しようとする自然な現象の一つでもあります。焦らず、様々な角度から自身のアプローチを評価し、改善点を見つけていくことが大切です。日常の活動量(NEAT)に目を向けることは、停滞を乗り越え、さらにその先の目標達成に向けた新たな一歩となるでしょう。
まとめ
ダイエット停滞期は、単に「頑張りが足りない」のではなく、体の適応やライフスタイルの中に原因が隠されていることが多々あります。食事や運動といった主要な要素に加え、見落とされがちな「日常の活動量(NEAT)」に目を向け、その重要性を理解し、自身の現状を評価することが、停滞脱出のための有効なアプローチとなり得ます。
この記事でご紹介したNEATの評価方法や具体的な改善策を参考に、ご自身のライフスタイルに無理なく取り入れられることから実践してみてください。小さな活動の積み重ねが、停滞を打破し、健康的なダイエットを継続するための確かな力となるはずです。